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Sky in Australia

Sky in Australia

痛みを分かち合う

産後の退院も近くなったある日、入院中同じ部屋に同じ症状で入院していたお母さんが私の病室を訪ねてくれました。彼女も私が娘を出産した前日に出産していました。お互い苦しい妊娠期間をやっと乗り切ったね、無事に生れてよかったね、と話している途中、不意に彼女が私の手を取って泣き始めました。

”本当に○○さん(私の苗字)には励まされました。本当にありがとう、、、。”

私も涙が溢れてきました。彼女も言っていましたが、今までの苦しみは一体何だったんだろう、毎日天井を眺めながら痛みとしんどさに耐え続けた日々。今はまるでそれが嘘のようでした。うつ病かノイローゼになりそうだったね、とお互い顔を見合わせました。

大げさに聞こえるかも知れないけど、本当に気が狂いそうになっていました。一室5人の大部屋に入院していましたが(個室は少なく取り辛かったのです)、普通の病室と違って体調が悪すぎてお互い話をすることも出来ませんでした。友達を作る余裕など誰もなかったのです。しゃべるだけでお腹が張るんですからね。

でも回診に来るドクターたちがそれぞれの妊婦さんと話をするのを聞くと、大体皆どんな状態なのかわかります。私はものすごくしんどかったのに、隣の患者さんは私よりもずっと頻繁に張りが来ていました。大変だな、、と思っていました。ただ、入院当初は多分私は病院で一番リスクの高い、要注意患者だったので、またすごい人が入院して来たな、と他の人に思われていたかも知れませんね。

入院中は、例えば眼鏡を床に落としても、決して自分では拾えないので、何か物を落とす度に”はーっ”というため息がカーテン越しに聞こえてきました。みんな同じなんだ、苦しいんだ、話をすることはありませんが、みんなそう思っていたと思います。

今までのあの苦しみが嘘のようでした。長い間寝たきりだったので体力的にはまだまだ回復していませんでしたが、あの恐ろしいお腹の張りと痛み、苦しみはもうありません。おまけに夢にまで見た自然分娩を成し遂げた。それは、本当に信じがたく、寝て起きるとまたあの辛い日々がやってくるんじゃないか、と少し怖いくらいでした。喜びと安堵のため、そしてやはりこの現実がまだ信じられないために、産後の入院中はベッドでぼーっとその幸せを噛み締めていました。そして時々涙を流さずにはいられませんでした。

帝王切開の時と一緒で、こういう経験をせずに何の問題もなく子供を産んだ人からは、よく、

”最近の妊婦はすぐ入院して弱い。”

と言われます。確かに若くして子供を産めば高齢出産よりも流産や早産のリスクは少ないでしょう。でももちろん入院している人の中には若い妊婦さんも沢山いました。大気汚染とか、化学物質の摂取とか、流産や早産のリスクがある妊婦が増えている理由には色々あるようです。

誰もこんな状態になりたくてなっているわけでは決してないのですから、他人事のようにけなすのは控えて欲しいものです。確かに色々個人的な原因もあるかもしれませんが、結果としてこういう状態になったからには、与えられたその状況の中で精一杯頑張るしかないのですから。

少なくとも今回の妊娠で以前よりも人の痛みがわかるようになった、そういう気がします。

とにかく、これが私の2回目の妊娠、出産体験です。育児は大変ですが、辛い時はこの初心に戻って感謝する気持ちを忘れないようにしようと思っています。

長い話を読んでくださって、どうもありがとうございました。

そして、莉里花(りりか)、生れてきてくれて本当にありがとう。




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